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大阪高等裁判所 昭和50年(う)324号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人栗坂諭作成の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。

控訴趣意第一、事実誤認の主張について。

論旨は要するに、原判示第一及び第二事実において、被告人は岸本はるみ及び大隅規和子との間には売春契約を締結したことはないのにもかかわらず、それぞれ売春契約をしたと認定した原判決は事実を誤認している、というのである。

よつて検討するに、原審で取調べた関係各証拠ことに岸本はるみ及び大隅規和子の司法警察職員及び検察官に対する各供述調書、被告人の司法警察職員及び検察官に対する各供述調書によると、被告人は原判示第一及び第二の当時、神戸市兵庫区羽坂通三丁目七の三、寿マンシヨンに居住し、「丸山」という屋号で、売春婦をその自宅等に待機させておき、遊客の求めにより指定の旅館等に赴かしめて売春を行なわせてその対価を売春婦と分配するいわゆるコールガール方式の売春業を営んでいたが、原判示第一及び第二のとおり自宅において、岸本はるみ及び大隅規和子と、同人らをその自宅ないしその勤務先に待機させておき、遊客ないし同業者の求めがあると電話で同女らに連絡し、指定の旅館等へ赴かしめて売春させ、遊客からの直接の申込による場合はその対価の四割を被告人、六割を売春婦が取得し、他の同業者の紹介によるときはその対価の四割を被告人及びその同業者(そのうち被告人は電話料の名目のもとに一、〇〇〇円)、六割を売春婦(そのうち被告人が電話料名目のもとに一、〇〇〇円を取得することもある)が取得することなどを内容とする契約をし、以後右契約にしたがつて右両名を売春させてその対価を分配していた事実を認めることができる。所論は原判示第一事実について、原審証人岸本はるみの供述を援用して同女との間に売春契約をした事実はないというのであるが、同証人が売春するに至つた動機の点はともかくとして、同人が被告人の指示により売春しその対価の四割を被告人に渡していたことは右の供述自体によつても明らかであり、右の供述は原判示第一に関する右認定を左右するものではない。所論はまた原判示第二事実について、その証拠とされている藤本郁夫の検察官に対する供述調書謄本は信用性がない旨主張するが、同調書は大隅規和子及び被告人の司法警察職員及び検察官に対する各供述調書と一部相違するところがあるにせよ基本的には矛盾するものではなく、また原審証人大隅規和子の供述とも特に矛盾する点はなく、十分信用することができ、藤本郁夫の検察官に対する供述調書謄本を犯罪事実認定の資料としてもなんらの違法はない。所論はまた被告人の背後には隠れた売春業者が存在し、被告人は単にその取次をなし僅かな電話料を取次の口銭として取得したにすぎず、売春契約の当事者となつたものではない旨主張し、被告人も原審公判廷において同旨の供述をするのであるが、右にいう背後にいる隠れた親方というのは相互に遊客を紹介しないし売春婦の派遣を要請しあう同業者を指しているものであることは右供述及び被告人の捜査段階における供述にてらし明白であり、被告人がその背後の売春業者のたんなる取次ぎ役にすぎなかつたものとはとうてい認めることはできない。原判決には所論の事実誤認はなく、論旨は理由がない。

控訴趣意第二、法令適用の誤の主張について。

論旨は要するに、売春防止法一〇条の人に売春させることを内容とする契約とは婦女に売淫的拘束を及ぼす契約をいうのであつて、本件においては仮に契約があつたとしてもその契約は自由に解約することができ契約自体は婦女に対し直接的にせよ間接的にせよなんらの影響力を有していないのであるから、かような契約は人に売春させることを内容とする契約であるとはいえないのにもかかわらず、右契約にあたるものと判断した原判決は法令の適用を誤つているというのである。

しかしながら、売春防止法一〇条にいう人に売春させることを内容とする契約とは、他人に売春をさせることを内容とする契約であれば足り、契約の当事者である婦女において何時でも自由にその契約を解除することができるような場合でもこれを含むものと解するのが相当であり、本件各契約を同条所定の契約にあたるものとして判断した原判決の判断は相当であり、所論の法令適用の誤はない。論旨は理由がない。

控訴趣意第三、量刑不当の主張について。

論旨は原判決の量刑不当を主張するのであるが、本件各犯行の罪質、動機、態様及び被告人は同種事犯により懲役刑の執行を猶予された前歴が二犯あり(二回目は保護観察付)、本件は右保護観察付執行猶予中の犯行であること、本件各売春契約の実施による被告人の利得も決してすくなくないこと等からすると犯情は軽視し得ず、所論の諸事情を参酌しても原判決の刑が重すぎるものとは考えられない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により、主文のとおり判決する。

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